ヴァルナ国際バレエコンクールの紹介

2016年 第27回 ヴァルナ国際コンクールの審査員に選出された今村先生に、コンクールに関するさまざまなことについてインタビューさせていただき、海外で活躍するダンサーやバレリーナを目指す子供達に向けてのメッセージをいただきました。

  • 日本の審査員の先生方と、海外の審査員の先生方の視点は違うのでしょうか。
  • そんな事は無いと思います。
    ただ、日本の場合は国際的なコンクールとはやっぱり違いますから。レベル・水準が低いですよ、はっきり言って。
    ですけど、ヴァルナのコンクールが求め続けている人は高いところにあるわけじゃないですか。「より高く、より高く」という、理想の世界を求めてアーティストというのは活動しているわけだから。
    今回のヴァルナの審査員は色々なカンパニーのディレクターであったり、バレエ教師だったりしますから、本当にそれぞれの国で自分たちの活動に対して最高の物を目指している、そういう意味では妥協はしませんよね。
  • 日本のコンクールもレベルは上がってほしい所でしょうか。
  • ただ、要するにコンクールというよりも「みんなで楽しく踊りましょうね」という感じの方が強いような感じのコンクールが日本の場合はいっぱいあるでしょう。その中で格が違うコンクールと、みんなで勉強する為のコンクールとは違うから。もし日本でコンクールをやるのであればその違いをきちんとした方が良いし、ちゃんと出場者も勉強の為に出るコンクールなのか判断した方が良いですね。
  • ヴァルナ国際バレエコンクールは野外ステージとの事ですが、雨は大丈夫なのでしょうか。
  • 私が現地に行っている間は一度も雨は降らなかったです。
    元々ヨーロッパは、夏の雨が少なく湿気も少ない所から野外の公演等も良く行われているので、そういう意味では本当に森の中の劇場で本当に良い雰囲気でした。
  • 野外ステージだからこその、他のコンクールとの違いや難しさはございますか。
  • ヴァルナは野外といっても割と囲まれて、客席もちゃんと固定された客席で、1階席、2階席とあって踊っている人からも見えます、なので踊りやすいんだと思います。
    もちろん周りは緑の自然がありますし、風が吹いたりという違いはありますけれども、普通の劇場で踊っているような感じです。
    うちでやっている清里フィールドバレエはもっと外なんですよ、あれはまわりになんにもない所にステージを立てていますから。
    ただヴァルナは壁もしっかりありますし、ダンサーの視界にも壁が見えます。だから楽ですよね、何にもない所で踊る他の野外ステージのほうがもっと大変かもしれない。

    空間は野外ですけどね。自然のツタが壁につたい、昔の写真だと少しコンクリートの壁が見えますが、今は一面緑が茂っていてとても綺麗でした。そこに照明が当たり幻想的にもなります。
    それとオリンピックみたいに開会式ではそれぞれの国の代表が国旗を持って行進するんですよ、33カ国のダンサー達が。それで聖火みたいに火を持って来てそこに灯してから始まります。
    閉会式ではゴールドメダルを取った二人がその火を消して次の2年後に、と。とてもロマンティックな開会式と閉会式でした。バレエのオリンピックみたいで、すごく素敵な。
    演出も最後の時にメダリスト達が全員ガラで踊ったりすると、観客もブラボーブラボーと歓声があがり素敵なコンクールで、ダンサー達もとてもエキサイトしていましたね。
  • 開催地のブルガリアでもバレエは盛んなのでしょうか。
  • 私も詳しくはないのですが、ソ連の時代からの繋がりで始まったそうですね。
    今年は審査員長がワシリエフさんで、彼はボリショイバレエのトップスターだったじゃないですか。ワシリエフさんが出て来るとお客さんが本当に大喜びするんですよね。審査員長が出て来るだけで。
    それほどみなさん、ボリショイバレエのワシリエフさんを尊敬している。というのがとても伝わってきてやっぱ歴史ってすごいんだな、と。
    日本の人って、まだそう分ってくれてない。日本の素晴らしいダンサーたちが、過去の栄光を持っている人とか素晴らしい業績を残した人がいても、それほど喜んでくれない。
    そういう認知度がイマイチだよね、これからだね。
    だんだん活躍している人たちが少しずつ注目されているけれど、もっともっとそういう時代が日本にも来てほしいなと。いずれ来るでしょう、当然。
  • 確かにオリンピックのメダリストの様に、活躍されているダンサーさんをスターみたいに、という所にはまだ来ていない印象があります。
  • そうやってどんどん日本中の人がね、バレエを見てくださるような時代が来てほしいですね。いずれきっと来るでしょうけど。その為に今みなさん頑張っていると思うし。
    だから、外国にばっかり行かないで、日本のバレエも育てるダンサーがいてほしいなと私は思いますけどね。
    もし外国のバレエ団で踊りたいと思っている子たちも、日本での繋がりをきちんと持って自分の国を大事にしてもらいたいなって思います。
    外国に行っても、ずっと行きっぱなしでなくて、いつかは日本に帰ってくるんだから。
    私も若いときに、ロイヤルバレエに留学して舞台で踊る経験があったんですよ。
    踊ったあとにお辞儀をして、顔を上げたら、みんな茶色い髪の毛で青い目をした人ばっかり客席にいるの。
    「あれ?あれ?」とその時私自身は思って、そうじゃなくて自分は「黒髪の、黒い目をした、日本の人たちの為にバレエをやりたい。」ってそのとき思った。
    人によって色々な考えがあります。インターナショナルな場で活躍したいという人もいるけれど、私はそうじゃなかった。
  • いま活躍される人はどんどん海外に行ってしまって、国内がさみしいなぁと思う所があります。
  • 「才能の流出」とか言われるのだけれども、私は流出ではなくて、世界が広がったんだと思う。今は海外に行ってもすぐ帰って来られますからね。
    私は九州の生まれで、九州でバレエを始めて東京に勉強に来るのに、それこそ寝台車で来た時代もあります。それと同じような時間で外国へ行けてしまう。そういう意味では、とても世界が近くなっているんです。だから、世界が広がっているんです。流出じゃなくて、皆広がってまた帰っておいで、と。
    バレエはそれこそ言葉が無くても通じるような世界なんだから。何処に行ってもバレエはバレエですから。
    そういう意味では私はヴァルナに行って、島国日本ではなくて広い繋がりを感じた。
    海外で踊っている日本の子たちも、そこの国の人になっちゃったんじゃなくて、日本で生まれて日本で勉強した子だから、ちょっと外で踊ってる。でも心は日本なんだよ、というのはちゃんと感じましたよ。
    日本でも最近、海外で活躍しているダンサーが出演する公演を良くやっているじゃないですか。世界と繋げて、日本と繋げて、広がっていきたいな、と思いました。
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